エンデがかつて
“世代間戦争”ということばを使っていたけれど、講師の原子力資料情報室・澤井正子さんからの主たるメッセージも「子孫にこんなものを残していいのか?」ということだったと思う。
2006年8月2日、「高レベル放射性廃棄物施設誘致反対稚内市民の会」主催の講演会『今日の放射性廃棄物問題--六ヶ所村再処理工場と高レベル放射性廃棄物』が稚内海員会館で行われた。
参加を呼びかけるビラから--
原子力発電所の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す、青森県六ヶ所村再処理工場は、様々なトラブルや設計ミスが発覚していたにもかかわらず、3月31日使用済み核燃料を使った本格試験(アクティブ試験)をスタートさせました。これによって原子力発電所の何百倍もの放射性物質を日常的に放出し、高レベル放射性廃棄物も量産され始めました。
一方、高レベル放射性廃棄物の地層処分研究を目的とした、幌延町での「深地層研究所計画」は、昨年11月9日に第二段階の地下施設建設工事に着手し、現在3つの立て坑(換気、東、西)の内、換気立て坑が5mほど掘り進められています。しかし、その地下には高濃度の大量の塩水と、基準値を超える特定有害物質のカドニウム、セレン、ヒ素、フッ素、ホウ素等があることが分かっています。この工事による汚泥処理は処理施設が完成していないため、産廃業者がタンクローリーで旭川の産廃処理施設まで運んで処理をするという、ずさんな計画のもとに進められています。
参加者は40名くらいだったかな?
澤井さんは幌延には何度か足を運んだことがあるが稚内は初めてだとのこと。
代替エネルギーのことにちょっと触れた際に風力発電にも言及したが、宗谷丘陵のウィンドファームのことではなくて浜頓別の「はまかぜちゃん」しか例に出さなかった。知らないんだろうな。
以下、おおまかな記録。
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▼「トイレなきマンション」と言われてきたように、原子力開発の当初から廃棄物処理に関する見通しがなかったことが現在の高レベル廃棄物問題の根源にある。
【プルトニウム/プルサーマル】
▼廃棄物から再処理工場で分離したプルトニウムを高速増殖炉「もんじゅ」の燃料として使用することが計画されていたが、「もんじゅ」は10年前の事故以来稼動のめどが立っていない。一方で、日本で原発で生み出された使用済み核燃料7100トンは英仏の再処理工場に運ばれてプルトニウムが分離され、現在43トンが貯蔵されている。このままでは、せっかく分離したプルトニウムの使い道がない。
そこで、余剰プルトニウム対策として出てきたのが「プルサーマル計画」。プルトニウムとウランを混ぜて「MOX燃料」をつくり、通常の原発(軽水炉)の燃料として消費しようというもの。
プルトニウム抽出の本来の目的が消滅したのに、新たに別の目的を設定して六ヶ所村再処理工場でプルトニウムをさらに生産しようとしている。
▼六ヶ所村再処理工場が完成すると、使用済み核燃料の年間処理能力は800トン/年であり、そこからプルトニウム8トン/年が生産される。工場は2007年8月に操業開始予定だというが、実は新しい使用目的であるプルサーマル計画はほとんど実施される見通しが立っていない。
当初の計画では1999年から実施されるはずだったが、東京電力では刈羽村住民投票で拒否され、さらに「原発トラブル隠し」で福島、新潟両県から事前了解を白紙撤回された。関西電力では美浜原発3号機事故(2004)で地元の信頼を失い、中部電力でも浜岡1号機事故(2001)や東海地震問題等で実施は不明である。結果、これら日本のプルトニウムの2/3を消費することになっていた大電力グループにプルサーマル実施のめどはない。
つまり、そもそも現時点で余っているプルトニウムをさらに増やす必要性はまったくない。
【六ヶ所村再処理工場】
▼必要性がないにもかかわらず進められる六ヶ所村再処理工場は、さらに多くの問題点を孕む。再処理工場とは、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを分離する化学工場だが、それは核施設と化学工場の危険性を併せ持つことになる。
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事故にいたらなくとも日常的にクリプトン、キセノン、ヨウ素、炭素、セシウム、ルテニウムなどが空気中に放出され、トリチウム、テクネチウム、セシウム、アメリシウム、ヨウ素、プルトニウムなどが海洋中に放出されることになる。労働者の被曝事故が懸念されるし、もしも臨界・火災爆発・漏洩などの事故が起こればその被害は甚大なものになるに違いない。
政府や電力会社は「再処理によって廃棄物の量が減る」などと宣伝するが、これは大きなウソだ。確かに高レベルの使用済み燃料はガラス固化体にすれば量は減るが、それと同時に膨大な低レベル廃棄物が再処理によって発生するのであり、総量は増える。フランスのラ・アーグ再処理工場で15倍、東海村再処理工場で40倍という実績があるし、六ヶ所村でも7倍になると試算される。
しかも、六ヶ所村再処理工場の操業は40年間とされているが、操業が終ったあとは
施設全体が放射性廃棄物となる。計画では、この放射性廃棄物としての
再処理施設を処理するのに35年かかるとされている。それほど危険であり、扱いが難しいということだ。
▼膨大なコストの問題もある。1989年に出された最初の計画では、施設に必要な費用は7600億円とされていたが建設が進むにつれて金額は膨れ上がり、2003年の段階では11兆円だとされた。建設費用だけでなく、運営・維持費用や解体費用を見積もるとそうなるというのだ。税金を充てればいいから、当初予算からかけ離れても事業の見直しなどは必要ないということらしい。
さらに、再処理したことによって生み出される廃棄物の処理にかかるバックエンド費用を含めれば約19兆円と見積もられているが、これも実際にはケタが違ってくる可能性がある。再処理工場の建設・稼動によってこれらのコストの負担は次の世代、さらにその次の世代へと持ち越されることになる。
逆に言うと、
再処理をしなければこれらのコストの大部分は不要なのだ。使用済み燃料を再処理せずに直接処分する方途を選択すべきだ。
▼六ヶ所村再処理工場には設計上奇妙なことがある。ウランとプルトニウムを一度分離して精製するのだが、その後せっかく精製したプルトニウムにウランを混ぜ合わせるのだ。その結果できあがるのはウラン単独の粉末と、ウラン・プルトニウム混合の粉末なのだが、なぜそんなことをするかというと、核兵器原料となるプルトニウムを単独では生産できないことになっているからだ。イランや北朝鮮に関わって名前の出てくる国際原子力機関(IAEA)が日本の原子力施設も査察している。
チェックされているとはいえ、国際条約上核兵器を持てない国の中でこれだけの規模の再処理工場をもつのは日本だけだ。
ウランとプルトニウムを混ぜ合わせる工程を省いてしまえば長崎型原爆の原料を製造するプロセスそのものであるから、再処理工場問題は核拡散問題としても重要になってくるかもしれない。
【高レベル廃棄物/幌延】
▼特に放射能が強く有害な高レベル廃棄物はガラス固化体にして貯蔵処分することとされているが、ガラス固化体にすれば十分に安全なのか。原子力資料情報室がそこに使われるガラスの組成を公開するよう求めたら、項目以外は全面黒塗りのものしか開示されなかった。「データは見せないけど安全だから信じなさい」ということらしい。
そもそも、ガラス固化体にされる高レベル廃棄物の放射能の強さは100年後でもほとんど変化しない。数千年経ってやっと半減するという代物である。そんなものを本当に安全に管理しきれるのか。
▼原子力発電環境整備機構(NUMO)が作成した「再処理等に要する費用」という一覧表には、年度ごとの再処理費用が見積もられている。開示された表はこれも項目以外は全面黒塗りなのだけれど、2005年度から始まるこの表は何と
2369年まで続いている
(中国電力の同様の表では西暦でなく「平成○○年」となっていて笑える)。再処理工場は40年運転し、解体に35年かけ、廃棄物処分に100年、さらにその後200年間処分場を監視下におき、2369年にはNUMOは解散するということになっているようだ。
さらに「看板問題」というものがあって、研究者がまじめに議論している。数百年間ほど人を配置して貯蔵地の安全を保ったとしても、その後千年・二千年たったころにどうやって「ここは危険だ」「ここを掘り返すな」と伝えるかという問題のことだ。そのころにそこが「日本」であるとは限らないし、現在のことばは通じないだろう。
そんなことに付き合うのか?
ということだ。
▼高レベル放射性廃棄物処理の事業主体であるNUMOの役員は電力ほか業界関係者ばかりで構成されている。彼らは高レベル廃棄物を産み出した責任者にほかならない。にもかかわらず
彼らは廃棄物の発生者責任を投げ出し、廃棄にかかるコストは電気の消費者の「受益者負担」だとして電力料金に上乗せしている。そして彼らは自分たちの出した廃棄物そのものは地方の過疎地に押し付けようとしているのである。
六ヶ所村は高レベル廃棄物の処分場になることはしないという条件で再処理工場を受け入れたから、「早く最終処分地を決めてくれ」と要求し続けている。工場が稼動を始めて高レベル廃棄物が産み出される前に、という処分地決定への圧力はますます強まる。
▼最終処分地の選定プロセスは次のようなものだ。(1)文献調査 (2)概要調査 (3)精密調査---この(1)に名乗りを上げた自治体には年間2億1千万円が支払われ、(2)の段階まで至ると数年間の総額で70億円。(1)では現地に調査団が入るわけではなく「文献資料」で調べる対象になるだけでそれだけもらえるのだが、今のところどこも立候補していない。
資源エネルギー省は先月、この(1)段階での交付金支払額を十数億円まで拡充する方針を決めた。さらに当該自治体だけでなくて周辺自治体(幌延なら豊富や天塩や稚内など)や都道府県に対しても交付金を渡すということにするらしい。まさに「ムラ買います」ではないか。
韓国では中低レベル放射性廃棄物処分施設の建設に当たって、応募した自治体に住民投票を実施させ、賛成率の最も高いところを選ぶという方法をとった。お金ほしさに応募した四つの自治体それぞれでは誘致賛成派と反対派が激しく対立して住民間の亀裂が生じるのだが、政府は高みの見物、というわけだ。日本がこの経験を参考にしないわけはないだろう。
「地域エゴ」でいいのだ。
この町に核のゴミはくるな、隣の町にもくるな。
発生責任者が考えて責任をとれ。
“ツケ”をわれわれが払わされるいわれはないのだ。
この記事に対するコメント
高レベル廃棄物処分/地方交付金を大幅増額/エネ庁・候補地選び難航で
原発の使用済み核燃料から発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定を進めるため、経済産業省資源エネルギー庁は5日までに、適地かどうかを地質や地震の論文や古文書で調べる「文献調査」の段階で地元に支払う交付金を、来年度から増額する方針を固めた。来年度予算の概算要求に盛り込む。
上限を現在の年二億一千万円から同数十億円に引き上げ、数年間の文献調査段階で総額数十億円とする。ただ同処分地の立地に対しては、長期にわたる安全性への懸念から選定作業が難航しており、“手土産”の増額でこうした状況が打開できるかどうかは不透明だ。
高レベル廃棄物の処分場は、処分主体である原子力発電環境整備機構が2002年末、全国の市町村から募集を開始。
地元への電源立地地域対策交付金は、増額される文献調査段階(数年間)のほかに、ボーリング調査(同)の段階で年最高20億円、計70億円を上限に支払われる。いずれも、名乗りを上げた自治体と周辺自治体とで折半される方式だ。
これまでに誘致に強い関心を示す自治体はあったが、周辺や県の反対でいずれも立ち消えになったため、エネ庁は受け入れには交付金の拡充が不可欠と判断した。
計画では、核燃料再処理で発生した高レベル廃棄物をガラス固化体に加工し、海外からの返還分と合わせ四万本を安定した地層に処分。国は28年から10年以内の操業開始を目指している。
調査開始から最終的に処分地が決まるまでには20年前後かかるため、エネ庁は来年夏ごろまでに文献調査の候補地にめどをつけたい考えだ。
■幌延深地層研は「核抜き」で誘致
道内では留萌管内幌延町が高レベル放射性廃棄物の地下埋設処分方法を研究する、「核抜き」を条件とした幌延深地層研究センターを2000年に誘致。06年2月から日本原子力研究開発機構が、同センターの地上研究施設で業務を行っている。
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核のごみ処分地誘致・表明、頓挫繰り返す
2002年に原子力発電環境整備機構が高レベル放射性廃棄物処分候補地の募集を始めて以来、いくつかの自治体が誘致の動きを見せたが、正式応募には至っていない。同機構と自治体との一対一の交渉では話が進んでも、事が公になると、安全や環境についての懸念に基づく住民や周辺自治体、県の反対を受け、あっという間に頓挫、という繰り返しだ。
国策である原子力発電で生じた核のごみ処分を国はそのためだけに設立した同機構に委ねている。しかし一認可法人の活動には、明らかに限界が見え始めている。
03年、熊本県御所浦町(現天草市)の町議らが町長に応募を検討するよう求めたが、町長は「環境への影響や安全性が心配」として応募しないことを表明。高知県佐賀町(現黒潮町)では誘致を求めた住民請願を町議会の委員会が不採択とした。
05年1月には鹿児島県笠沙町(現南さつま市)の町長が誘致を表明したものの、議会の強い反対で翌日に撤回。町長は減給され、核施設の誘致に反対する条例も可決された。同年10月、誘致姿勢を示した滋賀県余呉町長も強い反対を受け、県知事も「滋賀県にふさわしくない」と発言。誘致は事実上不可能になった。