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治安社会化とプライバシー

「稚内 憲法を学ぶ会」第20回学習交流会での報告の概要を同会の会報に載せたものを、転載。
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1.少年はモンスターじゃない
 最初に、治安全体のことではないのですが、「少年犯罪が急増・凶悪化している」というイメージについて検証しておきます。

 この図の平成以降のところだけ取り出すと、少年凶悪犯罪がほぼ倍増する勢いですが、戦後全体の推移を見るとどうでしょうか。映画『三丁目の夕日』で描かれた昭和35年前後と比較すればむしろ“激減”していると言えるはずです。人口比で推移を見てもほとんど同じことです。

 しかし、平成8年頃の増加は気になります。そこで凶悪犯罪の種類別の推移を描いているのが下図なのですが、平成に入ってから増えているのは「強盗」だけです。

他の3種にほとんど変化はありません。これは実は「強盗」の定義が変わったからなのです。ナイフを突きつけて「金を出せ!」というのが大方の強盗のイメージでしょうが、たとえばコンビニでの万引きが見つかって振り払おうとしたら店員がけがをした、というようなかつてなら「窃盗+傷害」として取り扱われていたものも「強盗」に分類されることになったのでした。これによって見かけ上、「凶悪犯罪」が増加しているにすぎません。
 しかし量的にはそうだとしても、「最近の子どもの犯罪は質が変化している」とか「動機が理解できないものになってきている」というイメージは残るかと思います。テレビがそう言っているからです。
 ではたとえば次のような事件はどうでしょう。

■奈良県北葛飾郡の農家で深夜二時、長男(19)が就寝中の家族五人の頭を斧で殴り、母親、二男、長女、三男を殺害、父親を重体とした。すぐに隣家に押し入り、就寝中の長女の頭を斧で殴り、逃げようとするところを肩と足を切って重傷を負わせ、母親にも切りつけたが斧を奪われ逃走、百メートル離れた線路で列車に飛び込んで自殺した。真面目な働き者の模範少年だったが、数日前に「自分が命を投げ出したら、幾人くらい殺せるだろうか」と話していた。

■大阪市阿倍野区で乗り捨ててあったタクシーのトランクから、この車の運転手の他殺体が発見された。運転手は鋭い刃物で、後頭部十三か所、右肩七か所を刺されていた。犯人は名門の府立高校に通う17歳の少年で、逃亡しパチンコ店に住み込みで働いていたところを逮捕された。少年には反省の色はほとんどなく、「『(運転手殺しを)やってみたらどうかな』と、かなり前から考えていた。ただサラリーマンになって漠然と生きていても、人間としての意味がない。そこで何か思い切ったことをやりたかった。車に対する好奇心やスリルを味わいたい気持ちもあった」と語ったという。


 前者が戦前の1934年、後者が1964年に起きたことです。昔の少年犯罪の方が現在よりも分かりやすかった、とは必ずしも言えないと思うのですがいかがでしょうか。

2.治安安定と「体感」治安悪化

 犯人の年齢を問わず、殺人事件の発生率の推移を示したのが上の図です。図の枠外になりますが、昨年の殺人事件の認知件数は戦後最低記録を更新しました。少年犯罪に限らず、戦後の動向全体としては凶悪犯罪は減っています。
 しかしよく「検挙率の低下」ということが取りざたされます。実際、2000年を境にして検挙率は急落しました。やはり治安は悪化しているのでしょうか。実は、1999年の「桶川ストーカー事件」を機に警察が市民の相談や通報に積極的に対応するようになったため「犯罪」として数え上げられるものが急増したのです。ほかにも、自転車の防犯登録制度ができたことによって自転車盗の認知件数が大幅に増えるなどの事情がありました。分母が大きくなった分、率は下がることとなったのでした。実質的な犯罪の増加、治安の悪化は認められません。
 にもかかわらず、「体感」治安は悪化しています。日本全体について、「2年前と比較して犯罪が増えたと思いますか?」という問いに対して「とても増えた」と答えた人が5割、「やや増えた」まで含めると9割の人が治安悪化の印象をもっています。ところが同じ人に「居住地域ではどうか」と同じ質問をぶつけると、「とても増えた」は4%弱、「やや増えた」を含めても3割弱でしかありません。「身近なところは平気だけれど、世の中全体は物騒だ」と感じている人がとても多いということになります。
 原因として次のようなことが考えられます。
“蛤疂麁--特に殺人事件に関しては、以前に比べて高頻度で長時間でよりセンセーショナルな報道がされるようになりました。「物騒だ、物騒だ」というメッセージを近年特に大量に浴びていることになります。
地域共同体の衰退--特に大都市では、隣の住人がどんな人であるのか全く知らないという状況は珍しくありません。身近な人の素性を知らないということは、実際の治安の動向に関わらず、不安感をもたらすでしょう。
生活不安--いわゆる格差社会化が深まって、いざというときにも生活が保障されない不安定な社会の中で、自らの生活や身体の安全に関する危機感が醸成されます。
ざ寡櫃寮治--犯罪やテロへの不安や恐怖が広がっている方が、お上にとっては統治や管理がやりやすくなるでしょう。

3.治安社会化とプライバシー
 治安が悪化しているという意識を下地にして、さまざまな形での監視や排除の仕組みが取り入れられ、受け入れられてきています。
 まず、街頭監視カメラ。犯罪が起きたあとに犯人を特定するなどの役に立ってはいるようですが、起こるのを防ぐためには実はあまり効果はなさそうです。新宿歌舞伎町に設置されている50台のカメラは有名ですが、警視庁は現在、「カメラがあるから犯罪が減った、ないから増えたとは一概に言えない」との見解です。監視カメラ先進国のイギリスでも同様のことが言われています。
 自動車ナンバー自動読み取り装置、通称「Nシステム」はスピードに関わらず通過するすべてのクルマのナンバー(と座席の写真)を記録しているものです。犯罪捜査に役立った実績はあるようですが、実際は目をつけた特定の人物(政治家や警察の内部告発者など)の素行調査・行動監視に使われているとも言われています。
 次に、市民相互が監視しあう仕組みとして「自警団」組織があげられます。「地域共同体が弱体化したから犯罪が増えた、だから治安のための共同体を復活させよう」との理屈に基づいた動きなのですが、現実の治安は悪化していないのでした。そうした中で「よそ者探し、不審者探し」に特化して住民が結束するというのは、結果的に市民が相互に不信を向けあうような社会を生み出しかねません。結果、ますます「体感治安」は悪化していくことになるでしょう。
 不審者の排除という論理をつきつめて行きつく先は、アメリカではすでに二千万人の人が暮らしているという「要塞都市」ないし「ゲーテッド・コミュニティ」です。塀で囲って出入りには厳重な警戒が敷かれています。塀で囲まれてこそいないものの、監視カメラと警備員の巡回を売り物にした「防犯タウン」は日本でも現われ始めています(たとえば旭川の「パークアベニュー忠和」)。
 
4.自由vs.セキュリティ
 このような一連の動きは、増幅される他者への不安と究極の安全を求める心理を背景にしており、さらにその背景には「治安悪化」というイメージが横たわっています。犯罪やテロへの恐怖が煽りたてられ、日常化することによって相互不信社会が形成されるとともに、監視されることやプライバシーを奪われることへの抵抗感は薄れていっていくことになるでしょう。
 「犯罪対策」や「テロ対策」の名の下に不自由を強いられる場面がだんだん増えていくことになり、そしてそのうち、<安全のための不自由>あるいは<マクロな自由のためのミクロな不自由>といった状況を「仕方がない」と受け入れて慣れていってしまう。その結果、抵抗したり異議申し立てをする者を異端視するようになっていきかねません。「こんな不自由はおかしい」「私のプライバシーを侵すな」といった行動や感覚が抑圧されていくということです。
 かつて空港でボディーチェックをかたくなに拒んでいた男性を見たことがあります。触れようとする係員の手を必死に振り払っていました。そのときの「おとなしくチェック受ければいいのに」という自分自身の視線を思い起こします。「おとなしくしておけばコトを荒立てないで済むのに」「悪いことをしていないんなら構わないだろ」という理屈で行動や身体や思想信条への介入を認める感覚はだから、僕にもすでに存在しているのです。
 「それ以上の介入は許さない」という一線はおそらく誰にでもあるのだと思いますが、ミクロな不自由の経験の積み重ねによってその一線がだんだんと曖昧になるというか、徐々に後退していくというか、そういうことになりそうな気がします。
 「ビラ配布で逮捕」とか、サミット警備の異常な厳しさとか、そういう治安社会化に慣れてしまわないことがだいじだと思います。
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